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Ⅰ.はじめに
神経筋疾患患者に対し運動療法を行う場合の大切な注意点の1つは,廃用症候群と過用性筋力低下(overwork weakness)とは隣り合わせの存在にあることである.特に,疾患の急性期や筋力低下による移動能力障害が著しい患者においては,運動が不足すれば容易に廃用を惹起し,逆にわずかな過用であっても組織が壊死を起こしたり,その回復を阻害することとなる.
過用性筋力低下の現象は,1915年,Lovett1)がポリオ患者で初めて提唱して以来,末梢神経障害,筋疾患,ギランーバレ症候群,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などで,多くの臨床報告がなされている.また,この現象の病理学的変化やその原因についての研究は,動物実験による報告があり,中でも弱化筋に対し運動負荷がもたらす危険性に関する報告が多い.蜂須賀2),Okajima3)の,アクリラミド・ニューロパチーのラットを用い,運動負荷により神経線維の小径化が起こるという報告や,Herbison4,5)の,ラットを用いた,圧挫による末梢神経障害の神経再生初期に対する運動負荷が,筋形質や筋原線維蛋白の減少をきたす報告がそれである.
一方,逆に過度負荷による影響を考える余り,負荷が過小となり,廃用性筋萎縮を起こし,回復可能な筋力を回復させ得ない場合もありうる.また,神経筋疾患患者に対する運動負荷は,低頻度・高負荷な運動より,高頻度・低負荷な運動が用いられることが一般的なようだが,近年,比較的強い抵抗運動によっても,筋病理学的に悪影響を及ぼすことなく,筋力増強効果が得られたとの報告6)もなされている.
筆者らは,神経筋疾患患者に対し積極的な運動療法を行い,その有効性について報告してきた.それらに基づき,文献的な考察も加えながら,現在当院で用いている神経筋疾患患者に対する運動負荷上の指標や具体的な運動療法について述べる.
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