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1.初めに
ヒトは加齢とともに睡眠障害が強くなる.特に脳に梗塞性病変やAltzheimer型病変をもつ痴呆患者では夜間の不眠,昼夜が逆転したような睡眠,不規則な睡眠などが目だつようになる.またこのような睡眠障害に,俳徊,不穏,興奮,常同行為,せん妄など異常行動を伴うことが多くみられ,家族や介護に当たる人々に大きな負担を与えることになる.筆者らはこのような睡眠障害は睡眠・覚醒リズムの障害であり同時に体温などの自律神経系リズム,メラトニン分泌など内分泌系リズムの障害を伴うことを明らかにした.このことから痴呆老年者の睡眠障害と異常行動の背景に生体リズム障害があると推定した.このような生体リズムを調節する機構は時計機構(clock mechanism,circadian timekeeping system)と呼ばれ,次の三つの部分から成り立っている(図1).一つは昼夜を区別する時間的手がかり(time cue,zeitgeber同調因子)を感覚器を通して時計に伝える伝達系,二つ目は振り子やクォーツなどに当たるoscillator(biological clock),三つ目はリズムを表現する表現系(overt rhythm)である.健康なリズムが表現されるためにはこの三つが十分に機能していることが必要である.
痴呆老年者にみられる睡眠リズムの障害の原因としては第一の同調因子の減弱であり,第二に脳にあるoscillator(振動体部)の機能的あるいは器質的障害が挙げられる.さまざまな同調因子の中で24時間を周期とする昼夜の明暗(light zeitgeber,光同調因子),他人と交わる,会話をするなどの社会的活動性(social zeitgeber,社会的同調因子),身体的運動,食事などが重要であることが知られている.老年者,特に痴呆老年者は外出や他人との接触,運動などの機会が少なくなり,また高照度光への暴露時間が減少することになる.このような状態は規則的な睡眠・覚醒リズムを維持する上で不都合な状況である.そこで不規則な睡眠・覚醒リズムを示す老人に対して睡眠薬に頼らないで生体リズムを整える方法,すなわち減弱した同調因子を強化する方法が開発されつつある.ここではその代表的な高照度光療法(bright light therapy,phototherapy)と社会的接触の強化(enforcement of social interaction)を紹介する.
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