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Ⅰ.初めに
ここ数年来,リハビリテーションに対する一般の人々の理解と関心,そして期待が急速に高まってきている.深刻化する高齢化問題,とりわけ心身に障害をもつ高齢者の増加がその背景として挙げられるのであるが,リハビリテーションへのこうした変化は特に1980年代中ごろあたりから顕著になってきたように思われる.すなわち,日本には「寝たきり老人」が異常に多いのではないかという問題提起が北欧諸国との対比の形でマスメディアを中心になされ,それを受けて1988年度に厚生省が研究班を設けてこの問題についての現状と比較分析を行なった1).その結果,身体移動に問題のある高齢者は確かに多いということとともに安静重視の介護についての伝統的な考え方の問題点も指摘され,早期からのリハビリテーションのたいせつさが強調された.そして,「寝たきり老人」は「寝かせきり老人」であるといった表現や「寝たきりは作られる」といった言い方がマスメディアなどから提示され,リハビリテーションを重視した介護についての啓蒙努力が積極的になされてきている.つまり,医療関係の専門職としては知られていてもこれまであまりなじみのなかったリハビリテーションが,一般の人々にとって今日ほど身近に受け止められることは無かったと言ってよいだろう.当然のことながら,リハビリテーションへの理解が浸透していけばいくほど,その効果に対する期待も大きくなる傾向にある.
一方,「寝たきり老人」に関する研究結果を基に厚生省も「寝たきり老人ゼロ作戦」を準備し,それがいわゆるゴールドプランへと引き継がれていった.リハビリテーションに対する人々の認識が深まっていくにつれて,老人保健制度をリハビリテーション重視の方向で拡充し,さらには老人福祉制度とも連携させながら地域・在宅ケアへと大きく方向転換してきているのは周知のとおりである.デイサービスセンターのような通所型施設や在宅におけるリハビリテーションの機会は今後ますます増加してくるであろう.
時代はまさにリハビリテーションが生まれ育った病院という特殊な場を離れて,それを必要としている人々の日常生活の場の中へと踏み出しつつあるのである.
ところで一般の人々の理解,関心,期待が大きくなりつつあるのはリハビリテーションの専門家にとっては好ましいことには違いないであろう.彼らの活動の場も拡大していくであろうが,病院を離れたところでどこまでそうした期待に応えられるのか,あるいは,応えられる期待とは何であるのかを相互に確定する作業は実は決して楽観できるものではないであろう.なぜなら,リハビリテーションをめぐる最近のこうした変化の意味を理解しにくい立場にあるのが,逆説的な言い方だが,ほかならぬリハビリテーションの専門家かもしれないのである.この点は後述する.
この小論では本誌の性格上,理学療法士を前提にデイサービスセンターや在宅で主に高齢者を対象にリハビリテーションを行なう上で重要となる諸点について,社会学的アプローチを適時取りながら考察したい.
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