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Ⅰ.初めに
近年,癌をはじめとする終末期患者に対する医療の在りかたが問われている1).それは一言で言えばCure(治療)中心の医療からCare(癒し)の医療への転換であり,延命重視の医療からQOL(Quality of life)尊重の医療への見直しと言えよう.確かに近代医学の発展は救命という課題においては偉大な成功をおさめてきたが,しかしその陰で多くのたいせつな事柄を見失いかけてきたのも事実だろう2).それは患者の人間としての個別性(Individuality)であり,社会に開かれた価値観・生命観・宇宙観であり,そして相互に影響し合う人間関係としての医療の視点である.ことばを換えれば,現代の医療は近代科学技術がもっている弱点3)をそのまま日常診療の中に内包してきたと言える.
近代医学の中では普遍性,進歩性,効率性といった視点が重視されてきた.患者は個人的できわめて具体的な問題を抱え病院を訪れるが,病院は患者を普遍化した理論で分類した一般例の中に埋没させていった.患者の身体は医学の専門分化に沿い細分化され,問題は還元主義の中で凝集され回答が出されてきた.病院は巨大化し,効率良いシステムとして機能しており,患者は迷子にならないためその機構への同調を余儀無くされてきた.医学はつねに《進歩》を求め,閉鎖された社会の中で可能性の追求を第一義的に進め,時に暴走し倫理的諸問題をあちらこちらで起こしてきている.
終末期医療はそのような医学医療では充たされない課題にあふれており,そうした医学・医療に問題を投げかけてきた.目の前にいる患者はかけがえの無い人であり,独自の歴史と人生観・価値観をもった人である.そして人生の危機に立たされ,援助を必要としている人である.そこで必要なのは,その人がその人らしく生き生きと最期を全(まっと)うできるその人用,独自のケアプログラムである.近代医学の延長線上に終末期医療は有りえなかったと言えよう.
そうした中にあってリハビリテーション医学・医療は,つねに批判的に医学・医療の在りかたに提言を行なってきた.理念的にも全人間的にとらえる患者観やQOLの重視など終末期医療と重なる部分も大きい.近年,医学的リハビリテーションの理念の普及と患者の権利意織の高揚とから終末期患者にリハビリテーション処方が出される機会も増し,その実践報告も散見されるようになった4,5).私たちも地域の第一線病院として過去12年間,終末期患者のリハビリテーションにも取り組んできた6).リハビリテーション医学のもつ技術や知識,チーム医療の実践など終末期患者のQOLを向上させる上で医学的リハビリテーションの果たす役割は大きい.
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