とびら
背中
小村 博
1
1重度身体障害者更生援護施設津麦園
pp.3
発行日 1992年1月15日
Published Date 1992/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551103421
- 有料閲覧
- 文献概要
ねぶたは,青森の夏祭り.地元の人間としても誇りに思える.社大な武者人形に,太鼓の響き,笛の囃(はや)し.迫力極まる色彩・音・振動の世界に,誰もが陶酔する.短い夏の乱舞.跳人(はねと)は花笠に浴衣,それに襷(たすき)を掛ける.襷はそもそも和服のとき,立ち居振る舞いがしやすいように,袖をくくり上げるものだが,ねぶたの襷は,背中に長く垂れ下がり,後ろ姿を華やかにする.跳人の動きにつられ,襷の裾が生き物のように動く.背中を飾るという意識が根底に有るのかもしれない.着物の帯・ジャンパーの文字・Tシャツの絵柄・背番号・女性の長い髪….背中にはさまざまな表現がある.人は何気なく背中を意識しているようだ.
妻は背中が痒(かゆ)いと言って,よく私の手を借りる.痒い所になかなか手が届かないのか,それとも甘えている振りをしているのかはしらないが,私はいつも快く掻(か)いてやる.彼女とは,ねぶた祭りで知り合った.もう13年も前のこと.
Copyright © 1992, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.