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Ⅰ.初めに
直立姿勢の調節は感覚受容器,神経系および骨格筋系によって為されている1,2).すなわち,深部知覚,前庭器,視覚などの感覚が末梢および中枢神経系に伝達され,これらの情報が中枢神経系で統合処理される.そしてこれらに応じた信号が錐体路と錐体外路系を経て骨格筋に伝達されて最後に全身の骨格筋で目的に合った姿勢に調節される.このように直立姿勢は①随意運動,②迷路,視器,自己受容器からの立ち直り反射③抗重力筋緊張④小脳の働きによる頭部,四肢,躯幹の協同作用により制御されているが,静止しているのではなく,わずかな動揺を繰り返しつつ動的平衡を保って維持されている3).また直立姿勢における調節能力は体力における調節力の中核を成し,かつ直立姿勢の調節機序は運動,動作の支配的機序を成すものであり4),種々の姿勢や動作の調節能の基本として重要である2).一方,直立姿勢を保持している場合,身体は絶えず動揺しているのであるが,その動揺は目標とする姿勢からの偏位とそれから立ち直ろうとする作用の動的バランスの現象であるとみなされ5),身体動揺を分析することによって,直立姿勢の調節能力や調節機序を評価,解明できると考えられる.
脳性麻痺は中枢神経系の障害による運動麻痺を主症状としている.そして姿勢反射の異常に基づく起立,歩行のバランスの不安定さが特に目だつ疾患である.そこで,月村ら6~9)は脳性麻痺の姿勢調節の様相を姿勢反射の面からではなく,それらの統合されたものである体重心の変動をとらえたと考えられる重心図の解析を中心に検討している.また直立姿勢の中でもっとも基本姿勢とされる坐位と立位のバランスを重心図としてとらえ,重心位置の変動,特に高さの変化による身体動揺の相違が知られ,中枢における姿勢バランスの制御だけでなく,足蹠や殿部などの接地部における感覚系のfeed back systemをはじめ,筋感覚系,関節感覚系などの固有感覚系の様相なども察知しうるものと考えた.そして立位バランスから体幹部のバランスを減じたものがただちに下肢のバランスであるとすることはできないが,ある程度起立のバランスにおける下肢機能が占める役割を知ることは可能であると考え,坐位と立位の重心図を比較検討した8).重心図と運動機能面については,脳性麻痺患者などでは直立位重心図における重心動揺距離と重心動揺面積とはほぼ平行関係にあると述べている9).従来,脳性麻痺の重心図は治療効果の判定6~9)として利用してきたが,重心図のもつ特性を再検討,検索し,治療手段,特に姿勢制御の面からとらえ,その手がかりを見いだす目的として重心図と運動発達,体幹機能がどのように関連しているのか検討してみることとした.
本研究は直立姿勢の基本姿勢とされる坐位,膝立ち位,立位について検討し,脳性麻痺児のもつ姿勢の特徴を姿勢調節の様相としての重心図をとらえ,直立能力の定量的評価を試みた.また,各姿勢間にみられる姿勢調節の相異,運動機能の差に基づく姿勢調節能の差および各姿勢における重心図が下肢運動発達と頸,体幹,骨盤帯運動機能とどのような関係がみられるのか検討してみた.
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