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1.初めに
我が国における脳性麻痺に対する運動療法の重要性は早くから高木1)らにより提唱され,主に肢体不自由児施設を中心に脳性麻痺児療育の一環として実施されてきた歴史がある.
1966年,第一回理学療法士・作業療法士国家試験が実施され,我が国にも理学療法士が誕生したころ,多くの訓練方法2)が導入3)され実践されていた.古くは,Phelpsの15の手法を用いた方法が実施されていた.その後,Temple Fay,Kabat,Rood,Bobath,Vojtaなどの神経生理学的アプローチと言われるさまざまな方法が導入されてきた.
1970年代に入ると,Bobath夫妻が1973年に,また,1975年にはVojta博士が相次いで来日し,彼らの治療体系を彼ら自身により直接日本の理学療法士に伝える講習会が開催された.それまで,種々の治療体系の導入は文献による知識か,外国でこれらの講習会を受講した一部の理学療法士による伝達講習に頼らざるをえなかった状況であり,臨床面での具体的な運動療法の進めかたに苦慮していた理学療法士にとって,治療体系の創始者本人たちによる実技指導がふんだんに含まれた,しかも,長期間にわたるこのような講習会が開催されたことは画期的なことであった.これらの方法は,脳性麻痺児の早期発見・早期治療の重要性と,施設収容型の療育から在宅通園を主体とした療育への療育形態の変化とに呼応するように,脳性麻痺児の早期訓練方法として積極的に取り入れられていった.
近年,周産期医療・新生児医療の進歩により脳性麻痺の出現率は低下し,重症児が増加する傾向にある.このような傾向に呼応して,重症児に対する理学療法,排泄障害に対する理学療法,呼吸機能に対する理学療法に関する報告4~6)や,新生児医療にかかわる理学療法士も現れ,新生児集中管理室での理学療法に関する報告7,8)もある.
脳性麻痺は多様な症状を呈しており,誰一人として同じ状態を示さない.そのため一人一人に合ったプログラムを用意することがたいせつである.筋緊張状態や障害部位による麻痺の型などにより類型化された,治療の基本的原則や治療の相違点はあくまで原則的なことであり,それを個々の臨床にどのように反映しながら,個別のプログラムを立案していくことができるかが理学療法士には求められている.
具体的な症例を報告することにより,脳性麻痺の理学療法プログラムを立案していく過程と,その際の考えかたについて述べる.
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