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Ⅰ.初めに
脳卒中片麻痺患者の理学療法プログラムは現在再検討の時期にあり1~3),これまで行なわれてきた個人の経験を重視したプログラムの立案から,データに基づく研究成果に裏付けられたプログラムの立案に変わろうとしている.これはあたかも,30数年前までの脳卒中患者に対する理学療法は電気刺激やマッサージ,水治療法(温泉療法を含む)が中心であったのが4),長い時間をかけ,現在の運動療法を中心とした理学療法プログラムに進歩したことに匹敵しそうな転換である.しかし,現在でも30数年前の理学療法が行なわれている病院もあり4),多くの研究成果を実際の臨床の場に生かすためには,解決すべき問題が多いようである.
脳卒中片麻痺患者の理学療法プログラムの再検討に関しては,10数年前三好5)がHirschbergの方法を紹介し,片麻痺の歩行には非麻痺側下肢の正常筋力維持と麻痺側下肢の変形予防とが重要で,麻痺肢へのファシリテーション・テクニックの効果は決して大きくはなく,片麻痺のリハビリテーションの基本である早期起立を否定するような技術論は,たとえ論理的には優れたものであれ有害だと述べ,理学療法士が麻痺肢の回復にのみ注目していることに対し警告を行なっている.
最近では上田2)が歴史のあるリハビリテーション専門病院において平均水準以上の理学療法,作業療法,リハビリテーション・ナーシングを受けている患者でも,片麻痺「非麻痺肢」の廃用性筋力低下を予防できていないし,戸外歩行が完全自立している患者でも「体力」低下があることを具体的データを示して指摘し,リハビリテーション関係者に反省を迫るものだと述べている.さらに,脳卒中片麻痺患者の予後予測が一部可能になったことをふまえ,従来の「やってみなければわからない」といういわば手探りのリハビリテーションから,科学的に基礎づけられた「やってみなくてもわかる」という見通しをもったリハビリテーションへの転換が可能になったと述べ,プログラムの層別化を提案していることは注目すべきことである.
このように脳卒中片麻痺患者の理学療法プログラムをより科学的に再検討する一つの課題として非麻痺肢機能の解明がある.
ここでは,非麻痺肢筋の廃用萎縮の問題を検討し,自験例を用いて非麻痺肢筋力の経時的変化の検討を行なう.
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