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Ⅰ.初めに
患者の身体に直接触れ,操作を加えるという術により医療行為を行なうことが多いわれわれ理学療法士にとって,医療事故は多かれ少なかれ付きまとう.だからと言って事故を弁護するものでは決してないが,業務の性質上ある程度やむをえない場合もあるように思われる.
当センターは,1978年に肢体不自由児施設足立学園を母胎として,種々の発達障害を有する子どもに対応すべく総合的な医療・療育の専門機関として新たに発足した.それに伴い理学療法の対象となる疾患も,従来の肢体不自由児疾患に加えて,運動(発達)に影響を及ぼすあらゆる疾患にまで拡がりかなり多様となった.特にDown症を代表とする染色体異常,精神発達遅滞,癲癇(てんかん)や各種代謝疾患などが数多く来所するようになった.また肢体不自由児施設部門(収容,および通園)に加えて,0歳から3歳までの乳幼児総合通園(肢体不自由児通園,精薄幼児通園,および難聴幼児通園)も所内に開設され,外来部門の強化と相まって対象児の低年齢化も著明である.さらに対象児の重度化・重症化も,著しい.
当センターに限らず今日の小児施設において理学療法士が対象とする子どもの特徴は,一般的に「対象疾患の多様化」,「低年齢化」,そして「障害の重度化,重複化」にあると言われている.それに伴い子どもが示す多種多様な状態に応じたリスク管理の必要性,重要性もまた高まっている.しかもこのような子どもたちが示す異常な運動機能が正常なものになるよう促すために,われわれはその子どもがもてる最大限の運動能力を引き出しかつ伸ばしていかなければならない.言わばわれわれ理学療法士は事故と隣り合わせの状況の中で業務を遂行することが多く,つねに不測の事故が起こる可能性も大きい.特に心身の苦痛などを的確に訴えられない乳幼児や重度児・重症児,適切な状況判断や注意力に劣る精神発達遅滞児や多動症状を示す子ども,強い負荷を与えられない虚弱児,および骨の脆弱な重度児など,訓練に伴う事故発生のリスクは大きい.
この小論では当センターにおける,過去7年間の訓練事故のデータといくつかの実例について紹介および分析を行ない,検討を加えて事故防止のための方策を考察する.なお当センターでは子どもの運動の問題に対しておおよそ理学療法士,作業療法士の別無く対応しており,組織上も「運動訓練係」として一つの単位をなしている.したがって,以下のデータは当係のものを用いることをあらかじめお断りする.
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