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Ⅰ.初めに
保健所において理学療法士としての立場で,今から何を,どう展開していったらよいのであろうか.もう目の前にすぐ超高齢化の時代が到来し,ますます多種多様な障害構造を背負った患者が増加している昨今である.地域には異なった境遇・生活環境で暮らしている人々が集まって社会を構成しており,そのような中にいる患者・家族に対する支援が保健所の主な仕事であることを再認識していなければならないだろう.
したがって,理学療法士自身もそれらの多様な疾患に対して的確に対応し,それぞれに合った適切な指導ができる技能を備えていること,また,熱心な研究意欲と,しっかりと前向きに仕事をする姿勢とが必要になってくる.そこで,理学療法士が保健所で働き出すときに,背景として何が備わっていれば仕事が展開しやすいであろうか.
(1)リハビリテーション思想の啓蒙と普及:社会一般に加齢も含めて身体的精神的に障害を負った場合,積極的に適切な考えかたの下,身体・精神機能の向上を目指してアプローチすることが望ましいという思想の啓蒙と普及.すなわち精神機能低下や,寝たきり老人にならないための手だてを知っていること.
(2)住民の理解とリハビリテーションの必要性:リハビリテーション思想が普及していれば,地域の人々は健康教室や種々の検診にも積極的に参加するだろうし,また障害を負った場合でも,理学療法などが回復に十分に役だちまた必要なことを理解していること.
(3)医療機関との協力と役割分担:その地域において,もうすでに公的総合病院,開業医院や保健所,それに福祉サイドの各種の施設間において理解が進んでいれば,おのずと各施設間の特色を生かした役割分担ができていく.しかし,この点においてはもうすでにさまざまの型で既成機関は系列化されてしまっていて,住民本位でない指導や紹介が往々にしてあるので,お互いに気を付けたい点である.
(4)保健所の地域リハビリテーション活動に対する行政側の理解と処遇:1983年に老人保健法が施行されたことに伴い,全国の市町村は対応を迫られている.しかし,高齢者に対する対策としてどう取り組んでいくかは市町村において大きな隔たりがある.その中で保健所長自ら高齢者などに対する地域ケアネットワークづくりを基に,機能訓練事業をはじめとする各種の事業を意欲的に展開し,その成果を十分に発揮している保健所もかなり出てきた.当然そのような所では機能訓練事業に必要な予算も,働きかけと,理解によりかなり措置されている.
(5)保健所内における理解と協力:理学療法士という職種は机を離れて現場で働いていることが多いし,熱心に働けば働くほどそうなってしまう.しかし,新しい発想で地域住民のために事業を展開するには,必ず予算が必要となる.この予算は長期・中期計画と言われる計画の中から多くは割り振りされるようで,また毎年の予算計画を必ず提出しておかないと当然予算化されないし,予算化されていないと後は,消耗品で処理できる程度の予算しかまわしてもらえないことになる.したがって,忙しい業務の間にも必ず他部署とのコミニケーションを交わして理解と,協力を常日頃から得ておくことがたいせつである(表1).
私の経験からこれら五つのことが背景としてあれば申し分無いと言えるが,そのような地域・職場環境はなかなか望めず,やはり,理学療法士の努力が必要である.そこでさらに,理学療法士自身が保健所内で気持良く意欲的に仕事が遂行できていく背景を表2に経験的にまとめてみた.
事務職員の方々の理学療法への理解程度はまったく素人のレベルであり,技術者同士においてやっと少しずつの理解と親近感が漂(ただよ)う.ただし保健婦との間の親頼関係は十分に深くないと仕事が表面上だけのことになってしまい,うまくいかないことを付け加えておく.
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