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移動動作,特に歩行は理学療法の中心的課題であり,正常動作についてのみならず歩行障害については,古くから多くの調査や研究結果が報告され,既に定説として多くの教科書に詳しい説明が載っている。既に特筆すべき論点は残されておらず,本誌でも歩行それ自体について講座で取り上げはするが,よほどの新味性が見つからないかぎり特集テーマとしては物足りないのである。にもかかわらず特集テーマとして本号で移動動作を取り上げた。その理由の一つは,それぞれの移動動作の異常を本特集のサブテーマにある「分析・介入・介助者への指導」といった一連の課題という切り口でまとめられた記事がないからである。もう一つは移動障害を極めて臨床的に介入という視点で再度捉えなおす時期に来たことを痛感するからである。というのは理学療法の治療的介入の理論的背景あるいはそれ以上に治療パラダイムが10年ほど前に始まった新しい流れに沿って作られつつあり,動作分析方法は格段に進歩したと感じられたからである。
吉田先生には,task-orientedな理学療法を端的に示していただいた。学習すべき一連の動作を「適応的で自然な活動」として行わせた具体例の提示である。このパラダイムは今後確実に定着するであろうが,適応といえどもなんらかの認知過程が存在するわけで,その過程と自然な活動との間を理論的に詰めることが今後の課題と思われる。山本先生には片麻痺慢性期の四肢動作時の体幹スタビリティを通して全体を観ることの大切さを示していただき,小野田先生には,頸損不全四肢麻痺を通して感覚入力の影響と利用の具体例を示していただいた。これもつまるところ認知過程の重要な要素である。中先生には,脳性麻痺を伴う児のタイプ別移動動作とそれを獲得するまでの困難性を丁寧に整理していただき,やはり動作獲得には感覚入力が重要性であることを示していただいた。嶋田先生には,最新の測定器具を使い関節モーメントから装具等の治療効果を分析いただいた。どの論文も治療介入および介護者への指導のための動作分析から始まるどっぷり臨床に浸かったような内容の提示をいただいた。相互に議論できるような論点を明らかにするまでは達してはいないが,それぞれの分野の今後を示唆する重要な内容である。ご執筆いただいた先生方にはこの場を借りて感謝申し上げたい。
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