書評
―井上和章―「“ながら力”が歩行を決める 自立歩行能力を見きわめる臨床評価指標「F & S」」
沖田 一彦
1
1県立広島大学・理学療法学
pp.266
発行日 2012年3月15日
Published Date 2012/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551102230
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脳卒中患者の歩行を,見守りから自立にいつ移行していいかという判断に悩んだことのない理学療法士(PT)はいないだろう.これまでに判断の基準がなかったわけではない.しかしその多くは,患者の運動機能レベル(麻痺側での片脚立位保持が5秒以上可能など)を指標とした,経験あるいは後ろ向き研究の結果に基づくものであった.本書の画期的な点は,それらの指標の不十分さに気付き,新たな指標を綿密な研究に基づいて開発したことにある.
その内容の本質はタイトルに表れている.「“ながら力”が歩行を決める」とはどういうことか.それは,運動機能の評価に認知機能の評価を合わせて行うことの重要性を意味している.前者には,PTにはなじみ深いFunctional Balance Scale(FBS)の下位4項目が用いられる.そして後者には,エピソード記憶の想起を求める簡単な質問を歩きながら行うStop Walking When Talking(SWWT)が採用されている.SWWTは,歩行中の質問により患者が歩みを止めるかどうかをみる簡単な二重課題である.両者の結果を合わせて判断することから,この指標はおのおのの頭文字を取って「F & S」と名付けられた.
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