とびら
『上手』『下手』
茶家 康吉
1
1市立大洲病院
pp.993
発行日 2011年12月15日
Published Date 2011/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551102131
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「上手」「下手」,この表記にはいくつかの読み方がある.舞台用語でステージの左右の区別の‘かみて’‘しもて’,相撲などでの組手の‘うわて’‘したて’など.しかしほとんどの人が真っ先に思い浮かぶのはやはり,その人の何らかの力量に対して独自の尺度で判定を下す‘じょうず’‘へた’ではなかろうか.医療技術者であるわれわれ理学療法士においても,その技術が比較的短期に上手の域に達する人,いつまで経っても下手な人があるのは,誰しも認めるところである.その判定は明確な根拠の元に成立しているものではないので傍迷惑なことかもしれないが,世の中そのような評価がなされることがある.この「上手」「下手」に関しては,世阿弥の『風姿花伝』に記述がある.
「下手にも上手の悪いところが見えた場合.あんなに上手なのに欠点があるものだ,という事は初心の自分にはさぞかし欠点も多いはずと悟りこれを恐れ人にも尋ね工夫する.これが良い勉強良い稽古となって能は早く上達するだろう.かたや自分はあのような悪い芸などをするはずがないと慢心を持てば,自分の長所をもわきまえなくなる.長所を知らねば短所をよしとしてしまうもの.こうなるといくら年季を積んでも,能は上がらない.これすなわち下手の心というものである.さればたとえ上手であっても,思い上がりは能を下げる.(中略)上手は下手の手本,下手は上手の手本とわきまえ工夫すべし」
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