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はじめに
平成18年度の医療制度改革以降,医療提供体制の見直しが進んでいる.施設の機能分化と連携体制の確立,そして在宅ケアの推進を目指して政策が打ち出された.平成18年度の診療報酬改定では在宅医療支援診療所のシステムが導入され,また今回の診療報酬改定においても在宅医療支援病院の要件緩和や往診料の引き上げ,訪問看護療養費の新設などが行われている.このうち,在宅医療支援診療所については,死亡前24時間以内の往診に対して1万点の診療報酬を設定するなど経済的にその導入が誘導され,また平成20年度の診療報酬改定でも「特定施設入院総合管理料」による導入などがあり,在宅医療への移行推進が意図されているが,平成22年3月現在,全国で約11,500の診療所が登録するにとどまっている1).
なぜ,在宅医療の普及は進まないのであろうか.その理由のひとつは在宅医療の内容の変化にあると筆者は考えている.これから増加してくる在宅医療の対象者の多くは,診療所ベースの外来医療からの移行ではなく,医療制度改革の進展に伴い病院の入院医療から在宅に移ってくる患者である.この変化は,病院で行われていた医療が在宅で継続的に行われていく体制を必要とする.すなわち,24時間365日対応が必要な患者の在宅医療が求められているのである.これまで在宅医療の推進は診療所の外来医療の延長線上で考えられてきたが,ソロプラクティス中心のわが国の診療所が24時間対応することの労働負荷はあまりに大きく,この点に構造的な問題があるように思われる.
あと10年もすれば年間160万人が死亡する時代がやってくる.これらの患者のターミナル期をすべて入院・入所施設で看ることは不可能であり,したがってターミナル期に対応できる在宅ケアの推進が求められている.今後,在宅医療を進めていくのであれば,これまで入院で行われていたターミナル期の医療が在宅で行われるための基盤を整備しなければならない.
また,医療技術の進歩はこれまで急性期疾患と考えられていた傷病を慢性疾患に変えている.例えば脳梗塞を考えてみよう.急性期医療の進歩により多くの脳梗塞患者が救命され,そしてその後何らかの後遺症を持ちながら10年以上生きることが当たり前の時代になっている.化学療法や放射線治療の進歩により,がんも同様に「慢性疾患化」している.これらの患者のいわゆる急性期は数か月であり,その後数年にわたる慢性期を過ごすのである.こうした患者の療養の場として病院は不適切であり,したがってこのような病態の変化に対応した新しい在宅医療システムの構築が求められているのである.
これは診療報酬上の設定のみにとどまらず,医療法や医療職の資格と職務権限に関する法律,薬事法など関連諸制度の広範な見直しと,患者および家族を含めた関係者の意識変革を必要とする.本稿ではこのような問題意識に基づき,在宅医療推進のための課題について理学療法士に期待される役割も含めて論述してみたい.
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