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著名な神経学者であるRizzolattiらの近著「Mirrors in the Brain」の序文に,興味深い一節がある.少し長いが和訳して引用すると「……劇場監督のPeter Brookはミラーニューロンの発見について,『神経科学はついに,劇場での常識-俳優の努力は文化的・言語的障壁を乗り越えてその身体の動きを観客に分かつこと(share)ができなければ,むなしいものになるということ-を理解しようとし始めた』と述べた.ミラーニューロンに関するBrookの言葉は,神経生理学以外の領域でその予想外の価値に対する多くの興味をかきたてた.芸術家をはじめ多くの者たちがミラーニューロンの虜となったが,その発見と実験的研究に関する物語についてはわずかな者が知るに過ぎない.ましてこの発見が,いかにわれわれが脳の構造と機能について理解するよすがとなるかについて,知る者は少ないのである.……」この一文の示そうとするところは,最近のニューロリハビリテーションへの関心の高まりと,さらに連続する新しい謎の深まりである.脳機能に関わる診断技術の飛躍的進歩は,神経学領域を超えてリハビリテーションへと研究の軸足を移しつつあるように見える.今号はその意味では,誠に時宜を得たものであるといってよいのではないだろうか.
本特集「ニューロリハビリテーションと理学療法」では,第一線で活躍されている5名の執筆者にそれぞれの立場から解説をお願いした.渡邉論文では,脳画像診断の基礎から臨床応用について解説し,その適応と限界について,例えばfMRIでは運動が制限されること,fNIRSでは空間分解能が低いことなどが指摘され,研究目的に合わせた使い分けが必要であることが述べられている.金子論文では,「運動以外の介入」の中からTMS,tDCS,自己運動錯覚の応用について基礎的生理学的研究から論じている.斉藤論文では,脳卒中患者の歩行に焦点を当て,これまでの浩瀚な研究史を基に,BWSTTとロコモーションインターフェースを用いた歩行練習の成果について紹介している.森岡論文では上肢・手指の機能回復に関して知覚運動学習モデルを提示し,ミラーニューロンシステムについても論じている.阿部論文では神経画像情報の具体的な臨床例への応用が,pusher例,thalamic astasia例など実際の症例を提示しつつ述べられている.これらの論文はいずれも多くの情報が盛り込まれており,読み応えのあるものとなっている.
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