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もし,あなたの家族が脳卒中に倒れ,集中治療室に入っていて,幸い意識が徐々に回復し,これから車いす移乗練習を始めようとする時,あなたならどのようなことを考えるだろうか.医学的知識に乏しい一般の人でも,電動ギャッチベッドのスイッチを押してベッドアップすることは容易である(たまにはベッドそのものにはさまれるというリスクがある).そして渾身の力を振り絞って車いすへと「投げ込む」こともできるかもしれない(点滴のルートや人工呼吸器のチューブはどこにいった?).ここまで読み進んであおざめない理学療法士がいるとすれば,よほど想像力に欠けるか大胆不敵かのどちらかであろう.素人とプロの最も大きな違いの1つは,このようなリスクを管理しつつ,最適な医療サービスを提供できる点であるといっても過言ではない.「リスクをとる」という言い方は主に経済活動で用いられるが,医療現場では「リスクに配慮・管理」して「自立・社会復帰」という果実を得るというようにも考えられる.
このように日々リスクと向き合って活動している理学療法士の臨床において,適切な「リスク管理」のテキストはこれまでそう多くはなかった.丸山仁司教授編集の「理学療法リスク管理・ビューポイント」は,このような現場の切実なニーズに応えるべく登場した好著である.本書はⅠ. 総論,Ⅱ. PT実施場所におけるリスク管理,Ⅲ. 理学療法治療におけるリスク管理,Ⅳ. 疾患における理学療法リスク管理,という4章から成り,読者が必要であると思った領域から入っていけるような極めて実用的・実践的構成になっている.Ⅱ章以降の各論では,項目ごとに見開き2ページにわかりやすくまとめられ,リスク管理のビューポイントが示されている.特に「エピソード」の項では実際の失敗例(!)が記され,さらに禁忌注意事項のレッドカード,イエローカードが呈示されている.冒頭の状況に関連した一例を挙げれば,「脳血管障害―急性期(pp124-125)」では,車いす移乗の際に起きた意識消失例が例示され,その具体的対応(リーズニング)が説明されている(急変時の対応は?,コミュニケーション困難例への対処は?…).そしてこの項のレッドカードとは? (是非本書をお読みください)
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