特集 身体と環境
生態心理学における身体-環境―不全頸随損傷者の事例研究を通して
高橋 綾
1
Takahashi Aya
1
1東京大学大学院教育学研究科博士後期課程
pp.845-850
発行日 2003年10月1日
Published Date 2003/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100898
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筆者は2000年6月~10月にリハビリテーション病院で一人の頸随損傷者を縦断的に観察させていただく機会を得た.それまで運動障害者と直接接する機会をもたなかった筆者には,そのひとつひとつの動きに考えさせられることが多かった.動きを撮らせていただいたビデオを繰り返し見る中で,ひとつわかったことは,日常生活で必要とされるどんな動きも,周囲にある環境とのかかわり合いであるという事実だった1).
観察は食事の自助具を作りながら行われた.自助具を作っていく過程で,その患者の動きが,食物や自助具の素材や形態によって変わり,環境の微細な特徴に大きな影響を受けることがわかった2).この患者にとっては,ケーキをフォークで切ることや,カップを持ち上げたりすることが困難で,健常者がなにげなく利用している環境特性に対処していくのに,運動障害をもつ患者は努力を要した.それは対象物の操作だけでなく,座位姿勢などの基本動作でも同様だった.例えば車いすのクッションの圧力を時折調節しながら体幹を支持することは,地面との関係を持続的に保つことであり,重力という環境の主要特性とのかかわり合いである.運動障害をもつ患者の動きの観察から,その身体が出会っている環境という存在が筆者には見えてきた.
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