プログレス
脊髄再生の可能性
岩波 明生
1
,
山根 淳一
1
,
加藤 裕幸
1
,
植田 義之
1
,
池上 健
1
,
石井 賢
1
,
小川 祐人
1
,
中村 雅也
1
,
戸山 芳昭
1
,
岡田 誠司
2
,
岡野 栄之
2
Iwanami Akio
1
1慶應義塾大学医学部整形外科
2慶應義塾大学医学部生理学
pp.539-546
発行日 2005年6月1日
Published Date 2005/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551100115
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
20世紀初頭の著名な神経解剖学者であるRamon y Cajalが「ひとたび損傷を受けた中枢神経系の組織は二度と再生しない」と述べてから,中枢神経系の疾患や外傷で失われた機能の回復は不可能であるというのが通説であった.しかし近年の神経発生生物学の進歩により,中枢神経軸索の伸展制御の分子メカニズムや可塑性などが相次いで解明されはじめると同時に,中枢神経系にも自己複製能と多分化能を有した神経幹細胞の存在が明らかになり,中枢神経系の再生医学研究が非常に盛んになってきている.本稿では脊髄損傷に的を絞り,損傷脊髄の再生の可能性につき近年の研究成果を紹介しながら概説する.
脊髄損傷とは?
脊髄損傷とは,交通事故や高所転落に伴う脊椎脱臼骨折などの外傷で脊髄実質が損傷されることにより,損傷部以下末梢の運動・知覚・自律神経系の麻痺を呈する病態のことである.現在本邦で約10万人,米国でも約25万人の患者がおり,年間本邦では5,000人,米国でも10,000人以上の患者が増加している.患者のほとんどが男性でしかも若年者が多く,近年医療の進歩に伴い受傷後も生存すること自体は十分可能となっているが,それだけに日常生活の不自由さや精神的な負担が長期間にわたり患者を苦しめる結果ともなり,社会的な問題となっている.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.