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インクルーシブ指向が高まり,重度な障害を持っていても,地域の保育所や小中学校へ通うこと,ヘルパーなどを利用しながら自立生活を送ることを選択する権利が保障されてきている.一方当園では,重症心身障害児施設およびショートステイ等の新事業の開設に向けて,施設の建て替え工事がまもなく始まろうとしている.幼少の頃より療育を受け,成人になった利用者の家族から新事業への期待の声を耳にすることも少なくない.私が入職してから6年半の間に,診療報酬改定や支援費制度が施行され,さらに今後,特別支援教育や障害福祉サービス法が法令化されることによって,障害当事者とその家族,そしてわれわれを取り巻く情勢は改革的に変化していくことが予想される.その中で療育や生活支援の体系が再構築されるとともに,理学療法士の役割を再認識しなければならない必要性を感じる.
理学療法士の役割をあらためて考えていると,ふと頭に浮かぶ1人の女性がいる.2年前,「ひとり暮らしに必要な身の回り動作が自立できるようになりたい」と当園に来られた48歳の脳性まひの女性である.室内は四つ這い,屋外は電動車いすで自立して移動し,食事や更衣,入浴,排泄といった身の回り動作には介助を必要としていた.70歳を過ぎた母親と2人で暮らし,介助は母親と,別に暮らしている兄,ヘルパーが行っていた.「ひとり暮らし」に向けて作業療法開始の要請や自立生活支援センターへの相談を促し,同時に,食事動作の自立に向けた練習と車いす移乗の介助方法の検討などを行っていた.理学療法を開始してから,しばらく経ったある日,衝撃的な告白があった.就寝時には2階へ行き,その介助は母親が行っているというのである.さらに,母親は「階段昇降の介助は何十年もやってきている.コツがあるのでヘルパーには頼めない」という.すぐさま母親の介助をなくすことを検討した.時間帯の関係でヘルパーや兄に介助を頼むことは難しいということがわかり,2階へは行かなくてすむよう1階の住宅環境を調整することを作業療法士とともに検討した.しかし,1階の部屋は大きな道路に隣接しているため,騒音が気になり眠れないという.説得に説得を重ね,時間はかかったが,できる限りの防音対策を検討するということでようやく納得していただいた.今ではぐっすり1階で眠れているようである.
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