連載 生殖補助医療 “技術”がもたらした現実と未来⑦
子どもの出自を知る権利
金城 清子
1
1津田塾大学学芸学部
pp.262-265
発行日 2003年3月1日
Published Date 2003/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100492
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はじめに 生成されるつつある権利
子どもの出自を知る権利の保障をめぐっては,国際的に見ても,現在,大きく変化しつつある。言うまでもなく,これまでの親の側の利益である秘密の保持に重点を置いた匿名性の原理から,子どもの側の主張や利益を配慮して,その出自を知る権利を認める方向へという変化である。
匿名性の原理が導入された当時,子どもの出生によって不妊治療は成功し,その後子どもは,自然の生殖で生まれた子どもと同じように成長していくと想定されていた。そこで,治療過程で第三者から精子の提供を受けたことは秘密にして,自然の生殖で生まれた子どもと同様に,親となる意思で子どもを産んだ人々が責任を持って子どもの養育に携わっていけば,子どもの福祉に欠けることはないと考えられたのである。しかし,治療の結果生まれた子どもが成長していくなかで明らかになったことは,子どもの出生をめぐる秘密は親子の関係に大きなダメージを与えること,そして生まれた子どもは,そのアイデンティティを確立するために,遺伝的な親を知りたいと希望することが多いということであった。このため,さまざまな場面で,この問題をめぐり再検討がなされるようになり,子どもの出自を知る権利を保障する方向へと流れが変わりつつある。
ところで,子どもの出自を知る権利は,これまで提供された精子によって生まれてきた子どもをめぐるものであった。本稿でも,その点から考察するが,提供された卵,胚についても,同様に考えられるであろう。
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