輸血検査メモ
臓器移植と検査
松野 直徒
1
,
長尾 桓
1
1東京医科大学八王子医療センター外科第5講座
pp.95
発行日 1997年6月15日
Published Date 1997/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543903109
- 有料閲覧
- 文献概要
臓器移植において輸血のかかわる最も重要な問題は術前の輸血によって生じるかもしれない前感作抗体の有無である.特に移植臓器の生着と関連が深いのは臓器提供者(ドナー)のリンパ球に対して臓器受容者(レシピエント)の血清中に抗体が存在する場合である.この抗体は前述した輸血歴のある患者や拒絶反応によって移植腎が廃絶した既往を持つ腎不全患者に多い.検査法はリンパ球交叉試験(クロスマッチ)と呼ばれ,HLA検査(他項参照)と同じcytotoxic assayによるが,生体腎移植でも死体腎移植でも必ず術前に行う重要な検査である.
リンパ球による前感作抗体には抗T細胞抗体と抗B細胞抗体があり,抗B細胞抗体には37℃の反応条件で検出されるwarm抗B細胞抗体と,5℃の反応条件で検出されるcold抗B細胞抗体の2種類がある.特に抗T細胞抗体がレシピエント血清中に存在すると,補体依存性細胞毒素反応あるいは抗体依存細胞媒介性細胞毒性反応が起こり,移植臓器(特に腎臓)は超急性拒絶反応を起こし,血流は途絶え,放置すると急速に壊死に陥り,摘出以外の治療法はない.したがって,抗T細胞抗体陽性,すなわちT細胞クロスマッチ陽性例は通常,腎移植では禁忌となる.warm抗B細胞抗体陽性例は超急性拒絶反応にはならないものの,早期の拒絶反応が起こるとされている1).cold抗B細胞抗体はHLA抗原以外の抗原に対する抗B細胞抗体とされ,腎移植の禁忌とはならない.
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.