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長い間論議を重ねてきた脳死問題も,継続審議・廃案などを経てやっと臓器移植法案として衆議院で可決され,さらに参議院で修正された案で討議され可決された."脳死判定・本人の同意が条件"といった理解し難い法案の論議が,本当に意義があり現実性のあるものか否かはなはだ疑わしいが,従来法律もなかったことに比べれば,前進としなければなるまい.腎・骨髄以外の移植がこれで法案が通れば可能になるかは将来の解決にゆだねるとしても,心・肺・肝・膵などの移植医療が,今までよりも一段と現実味をおびてきたことは否定できない事実である.この時期に"臓器移植と臨床検査"の特集が企画されたことは誠にタイムリーと言うべきであろう.
臓器移植時の臨床検査には術前・術中・術後と長期のfollow-upに分けられるが,手術直前・術中・術直後が重要で,このためには検査室の24時間体制・即時対応の体制が必要である.最もよい歴史を持つ腎移植でも免疫血清学的検査,非免疫血清学的検査に大別できる.術前では,移植手術で特異なことは当然のことであるが,ドナーとレシピェントの検査を行わなければならないことである.検査は,一般状態の把握から組織適合性検査へと進められていくが,腎・骨髄移植では特に組織適合性が重要である.現在,組織適合検査には,従来のHLA検査のほかにDNAを用いた検査も加わっている.今まで血縁者間の移植でも,一卵性双性児は別として,すべて血清学的に同一でも必ずしも術後の経過は順調とはいかず,1970年の国際学会では"HLA抗原の適合は腎移植の予後と相関しない"という衝撃的な結論が出て,われわれHLAを研究していた者たちは大変ショックを受けたことを忘れない.その後,HLA-DR・DQ・DP抗原の発見があり,HLA抗原の数も飛躍的に増加したことや輸血と移植の関係が取り上げられ,かなり1970年の結論は修正された.
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