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1.移植医療の黎明期
4世紀に実在した双子の聖人医師コスマスとダミアヌスは数多くの奇跡的治療を行ったと伝えられているが,その奇跡の1つに脚の移植手術がある.壊疽になった助祭ユスティニアヌスの右脚に対して切断手術を行い,事故で死んだ人の脚を移植したというのである.この伝説は15世紀に流行し,フィレンツェ美術においてたびたび描かれている.そのなかでも「助祭ユスティアヌスの夢」(サン・マルコ美術館所蔵)として,フラ・アンジェリコが描いたものが有名である.もちろんこの言い伝えは現実ではなく,助祭ユスティニアヌスが夢に見た出来事なのだそうだが,このように機能廃絶した身体の一部を健常な臓器に入れ替えるという考えは古くからある.中世の医療において脚を移植するというのは文字通り夢物語であったのだが,外科学が進歩し,消毒法や麻酔技術が発達していくなかで,外傷や腫瘍で欠損した組織を動物や死体に由来する組織で置き換える試みは続けられてきた.しかし,成功をみることはなかった.臓器移植には外科的な技術として血管吻合が必要であり,移植後に起こる拒絶反応に対する理解が必要だったのである.
血管吻合の技術は1902年にエメリッヒ・ウルマンがイヌを用いた移植実験を報告したことに始まる.その後,アレックス・カレル(1873~1944)が今日の移植医療へつながる血管吻合技術を確立し,また,臓器移植について数多くの業績をあげた.カレルはフランスに生まれ,1904年に米国へ移住して研究を行い,移植を成功させるためには短時間で血流を再開させることが大切であると述べた.血管縫合および血管移植,臓器移植への功績に対して1912年に39歳の若さでノーベル医学生理学賞を授与された.
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