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疾患概念
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)は,種々のリン脂質およびリン脂質とリン脂質結合タンパク質との複合体を標的抗原とする自己抗体群〔抗リン脂質抗体(群)〕の出現に伴い,動・静脈血栓症や妊娠合併症などを発症する自己免疫疾患である1,2).APSの診断上重要な抗リン脂質抗体は,リン脂質依存性凝固検査により検出されるループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA)活性3)と,免疫測定法で定量される抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibodies:aCL)および抗β2グリコプロテインⅠ抗体(antiβ2-glycoprotein Ⅰ antibodies:aβ2GPⅠ)である4).これまでの研究から,臨床的意義をもつ抗リン脂質抗体は,リン脂質そのものを認識する抗体ではなく,リン脂質あるいは陰性荷電物質に結合することにより構造変化を起こしたβ2GPⅠ分子上のエピトープを認識して結合する抗体(β2GPⅠ依存性aCLあるいはaβ2GPⅠ)であることが確認されている5).さらに近年,LA活性のもう1つの原因抗体として,細胞膜の主要な酸性リン脂質であるホスファチジルセリンとプロトロンビンとの複合体に対する抗リン脂質抗体〔抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(antiphosphatidylserine/prothrombin antibodies:aPS/PT)6)〕が確認され,APSは極めて多様性に富む疾患であると推測される.
APSは,臨床的に原発性APSと続発性APSに分類される1).原発性APSは,既知の膠原病や明らかな基礎疾患・誘因をもたないタイプで,抗リン脂質抗体の出現に伴い,脳梗塞・心筋梗塞・深部静脈血栓症や原因不明の習慣流死産などが認められる.一方,続発性APSは膠原病に合併するタイプで,基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)が最も代表的である.さらに,まれではあるがAPSの特殊型として,全身広範な血栓で発症し,急激な多臓器不全・重症呼吸不全・重篤な血小板減少症などを合併し,極めて予後不良な劇症型APSがある.
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