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はじめに
平成21(2009)年に「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が改正されて以降,わが国における心臓移植の件数は年々増加し,2019年度には年間79例に到達した.コロナ禍においてもドナー患者・家族のご協力や日本臓器移植ネットワークをはじめとした関連団体・施設の努力により,2020年度も約50例の心臓移植を行うことができており,心臓移植は重症心不全患者に対する確立した治療となっている.
日本での心臓移植の成績は10年生存率89.3%と世界と比較しても極めて良好である1).心臓移植後の死因として,移植後早期は拒絶反応と感染症が重要であるが,遠隔期には悪性腫瘍,移植心冠動脈病変,腎不全の割合が増加してくる(図1)2).長期の生存率を維持するためには,急性期だけではなく遠隔期の合併症を意識した免疫抑制療法が必要である.
この課題を解決するうえで,エベロリムスは非常に重要な存在となっている.2007年1月に承認されたエベロリムスは,細胞質内のFK506結合蛋白と複合体を形成し,哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mammalian target of rapamycin:mTOR)に結合することにより,造血細胞(T細胞,B細胞),血管平滑筋細胞,酵母などで細胞周期をG1期で停止させることで効果を発揮する1).エベロリムスにはカルシニューリン阻害薬による腎機能障害の抑制に加え,移植心冠動脈病変の抑制や抗腫瘍効果など特有な効果が報告されている3).そのため,国立循環器病研究センターの報告では心臓移植後1年において65%の患者でエベロリムスが併用されており4),当院においても67%(6/9例)の患者でエベロリムスの併用を行っている.
本稿では,心臓移植におけるエベロリムスの使用方法や役割,問題点に関して概説する.
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