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はじめに
採血に使用する皮静脈は,肘窩部付近に多い.採血の合併症には神経損傷,動脈穿刺,血管迷走神経反応などがあり,医療事故のリスクを伴う.神経損傷,動脈穿刺を防止するには皮神経や動脈を避け,皮静脈のみを穿刺しなければならない.皮静脈は駆血によって皮膚表面への怒張によって目視できることもあるが,怒張に至らず目視できない皮静脈もある.皮神経と動脈はその走行を皮膚表面から目視することはできない.
採血と静脈注射に伴う静脈穿刺において,新人の医療従事者は「経験すればわかるようになる」と諭され,十分とはいえない知識のまま経験を積み上げている.確かに“視診”ではわからない皮静脈を“触診”で捉え,穿刺に成功するようになれば“熟練した技能”とみなされ,臨床では重宝されるだろう.しかし,静脈穿刺による神経損傷を患者に負わせた裁判事例によると,静脈穿刺を実施した者はむしろ臨床経験があることが多い.実施者の法的責任が問われるのは経験の豊かさではなく,合併症を防止するための知識をもっていたか,苦痛を訴える患者の声に耳を傾け,危険回避行動がとれていたか,ということである.医療従事者にとって経験が重要であることは言うまでもないが,知識に裏打ちされた実践の積み重ねこそ,患者にとって必要な熟練である.
本稿は,合併症を防止し,患者の安全を確保しながら採血の目的を達成するため,経皮的には十分観察できない肘窩部付近の皮静脈,皮神経,そして動脈走行の解剖学的知識と臨床での静脈穿刺技術を関連付けて説明している.どの位置の皮静脈に,どのように穿刺するのが適切か,解剖体の肘窩部付近を剝皮し観察した報告1,2)を中心に,以下の視点で説明する.
①Huter線と矢状線を軸とした4区域の肘正中皮静脈の走行パターンを知る
②危険な皮神経,動脈の走行
③各区域の皮静脈と危険な皮神経・動脈の走行
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