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血中アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の臨床応用—肝臓病を中心に
三浦 力
1
1鹿児島大第2内科
pp.1207-1208
発行日 1988年9月1日
Published Date 1988/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543204722
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1955年,肝炎における血清酵素の上昇が報告されて以来,肝臓病の診断に血中GOT,GPT,LDH活性の測定は欠かせないものとなった.これらの酵素は主に肝細胞質内に存在し,肝細胞の壊死に伴い血中に逸脱することから,肝の炎症の程度を表す指標と考えられている.肝細胞内にはGOT,GPT,LDH以外にも各種酵素が存在しているが,現在利用されるに至っている酵素は少ない.この理由として測定感度の問題が挙げられるが,それだけでなく肝細胞壊死の指標としてGOT,GPTでさほど不自由していなかったことも一因であろう.確かに急性肝炎や慢性肝疾患で血中GOT,GPTが上昇し,診断および経過観察に汎用されてきた.
しかし,これらの酵素値がほんとうに肝臓の炎症の程度や進展状態を正確に反映しているといえるだろうか.実際,臨床の現場でも血中GOT,GPTがつねに低値で落ち着いているにもかかわらず,肝硬変症,肝臓癌に進行し,予後不良の症例も少なくない.また逆に,GOT,GPTが長期間にわたり変動する症例で予後良好と思える症例も,けっこう多い.医師も患者もGOT,GPT値を参考にしながら経過を見ているといっても過言ではないが,はたしてこれでいいのか,という疑問も起こる.冒頭に述べたように,GOT,GPTが一般的に肝臓病の診断に用いられるようになってまだ30年くらいしかたっていないのである.それ以前は黄疸と検尿所見などによって肝臓病の診断がなされていたであろうから,肝疾患患者の予後にGOT,GPTの上昇,変動がどれほど悪影響を及ぼしているのかがほんとうに確認されるのは,これからである.
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