トピックス
細胞壁欠損菌と感染症
有働 武三
1
1産業医大微生物
pp.803
発行日 1986年6月1日
Published Date 1986/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543203767
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「宿主-寄生体関係」のメカニズムについて分子レベルの研究が進むにつれて,細菌の表層構造物である細胞壁が感染の成立から発症に至る過程で重要な役割を演じている事実が明らかになってきた.一方,細菌類が細胞壁を失った状態でも発育し,自己の細胞を複製する能力を有することは古くから知られていた.このような細胞壁欠損菌(cell wall-deficient bacteria;CWDB)は多くの菌種において人為的に誘導することが可能であり,また,そのメカニズムは十分に明らかにされていないが,感染に際して宿主体内でも誘導される.
ところで近年,CWDBが関与する潜伏感染あるいは感染症の慢性化のメカニズムに興味が寄せられている.細胞壁成分は個々の菌に対して特有の抗原性を賦与しており,感染に際して宿主の監視機構および防御機構との間で相互作用を営む主役となる.それゆえ宿主との相互作用の結果,あるいはβ-ラクタム系抗生剤の投与の結果として誘導されたCWDBは,その後の宿主との相互作用の能力に著しい低下が予想される.こうした宿主との反応性の低下が感染巣の維持,慢性化につながるものと考えられている.
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