東西南北
医療,検査と人間性
岡 宏子
1
1聖心女子大学文学部
pp.860
発行日 1980年10月1日
Published Date 1980/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543202151
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医学の近代化は,医療行為全般に機械化を推し進め,それが人間性を減少させることにつながっていると言われる.コナン・ドイル描くところの名探偵シャーロック・ホームズのモデルは,ドイルの医学生時代の解剖学の恩師が,患者を前にすると,その顔色,目付き,膚の色艶やたるみ,歩き方などから,サッと診断の手掛かりとなる諸情報を読みとり,一瞬にしてその病名を察知したと言うその洞察力がそのままに,同じものを見ても見えぬワトソン博士には,神のごときものとも映ずるホームズの能力として表現されたのだという.
現代では,診断にこのようなホームズばりの洞察を発揮することが少なくなってきているといわれる.もちろん,人である患者にこれも人である医師が接して診察が行われることには変わりないが,その対人場面で,患者の語らずして語る情報を出来るだけ多くキャッチしようと,とぎすませた五感の網をはりめぐらすかわりに,機械による測定,採尿採血,更に必要に応じ次々に諸検査が指示される.これら検査の結果報告される数値や図形をぐいと睨みながら,おもむろにその意味するところを考えることによって,医師はより的確な診断が下せるようになってきているからであろう.そこで,患者がどんな訴えをもって医師の前に現われようと"まずは一通りの検査を"となり,次々に運ばれてくる検体の山を前に,検査技師は終日おおわらわという次第なのであろう.
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