検査の昔ばなし
肝検査法の半世紀
高橋 忠雄
1
1慈恵医大・内科
pp.706-707
発行日 1976年9月1日
Published Date 1976/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543201167
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まだ昔ばなしをするほどの年でもないとは思いますが,私が東大医学部に入学した年(1928)から数えると,かれこれ半世紀に近い歳月が流れているのも事実です.そのころでも,今と比べればはるかに乏しいものではありましたが,"肝機能検査"という言葉は,既に存在していました,元来,肝臓障害によって起こる症状というものは,急性肝炎で見られる黄疸や,肝硬変末期に見る腹水,消化管出血などを除くと,肝臓疾患に特有と言えるものは乏しく,どうしても,補助的診断法としての検査が必要となります.このことは,今のように種々の検査法があり,また肝生検も行えるようになる前には,慢性肝炎という状態の診断はほとんど不可能であり,内科学,消化器病学の教科書にも,慢性肝炎という病名もなかったことからも分かると思います.
ごく初期の肝検査法は,肝臓の最も重要な機能である糖質,タンパク質,脂質の代謝異常を調べようとするもので,その点から言えば本当の"機能検査"であったわけです.ところが実際には所期の結果は得られずに終わっております.その理由の第1は,これらの物質のうち,当時でも比較的困難なく定量できたのは糖質だけで,タンパク質や脂肪の定量は容易ではなかったということです.第2の理由としては,これらの養素の代謝の障害は,肝障害が極めて重篤な時に初めて見られるということでしょう.従って,軽い潜在性の肝障害を発見する方法としては不適というほかはありません.
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