医学の進歩をになった人々
アレクサンダー・フレミング・1
中溝 保三
1
1都立荏原病院
pp.49-51
発行日 1974年1月1日
Published Date 1974/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543200347
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準備された偶然
1928年の夏,ロンドン市のブレット街のはずれにある聖メリー・ホスピタル付属医学校の細菌学研究室の中で,くすんで黒ずんでがらくたの整理もされていない室内の実験台に置かれている1枚のシャーレに,中年の研究者がらんらんたる眼をこらしていた.彼は,"細菌学大系"という本のブドウ球菌に関する論文を書くために,かつて彼の同僚が行なったブドウ球菌の変異についての実験成績を追試して確かめるために,普通カンテン培地に培養したブドウ球菌のコロニーを観察していたのであった.この実験では,顕微鏡でコロニーの状況をながめるので,シャーレを開いておく時間が多くなり,どうしても空気中の雑菌の侵入を防ぐことができなかったのである.
彼が1枚のシャーレを見た瞬間,そこに迷入した青カビの周囲だけブドウ球菌の集落がぬけている姿が目にはいった.20世紀最大の発見が,この瞬間から芽ばえることになった.彼はこの発見にたどりつくまでに47年間の生涯を費やしてきた.ライト教授にしごかれた22年間の研究生活ののちに,ついにノーベル賞に価する大発見をつかんだのだ.
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