臨床検査技師のための 化学
化学反応・10 酵素反応(1)
吉田 光孝
1
1東邦大理学部
pp.28-31
発行日 1974年1月1日
Published Date 1974/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543200340
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最初に発見された酵素の1つは,胃液中に存在するタンパク分解酵素のペプシンであった.イタリアの偉大な生理学者のスパランツァーニ(Spallanzani)は,小さな金網カゴに入れた肉片をタカに食べさせた.あとでしいて吐きもどさせたところ,カゴは空っぽになっており,鳥の胃液には,肉を液化させるなにかの物があることを示した.その後食物が消化器の中で完全に消化されるのは,酵素の働きによるのだ,ということがわかつたのは,シュワン(Schwann,1837)によってであり,彼は胃の粘膜の"しぼり汁"が酸性で多量のタンパク質を溶かす能力があるのを認め,この作用物質をペプシンと名づけた.
現在では消化にとどまらず,いろいろな生命現象の根底に酵素反応が存在することが知られている.たとえばアルコール発酵は有名なパスツール(Pasteur,L. 1822〜1895)によって研究され,これは酵母という生物体と不可分な生命現象だと主張した.ところが,ドイツの化学者ブフナー(Buchner,1897)は酵母を完全にすりつぶして得られた"しぼり汁"でも盛んに発酵する事実を見いだして,発酵はかならずしも生物の生存を要しない酵素が触媒として作用する化学反応,すなわち"酵素反応"であることを明らかにした.このことは単に酵素の概念を確立させたばかりでなく,生命現象の根底に物質変化があり,それは酵素反応によっていることの解明に重要なきっかけとなったのである.
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