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はじめに
AKI(acute kidney injury)という概念は,これまで急性腎不全(acute renal failure,ARF)として認識されていた乏尿・血清クレアチニン値(serum creatinine,sCre)の著しい上昇を示す病態を,より早期に検出することを意識して新たに提唱された.これとともにRIFLE基準,AKIN基準といった新しい診断基準が作成され1,2),さらに2012年にはKidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)からRIFLE(risk, injury, failure, loss of kidney function and end stage of kidney disease)およびAKIN(Acute Kidney Injury Network)基準を統合したものが提唱された(表1)3).これらの診断基準を用いることによって,わずかなsCreの上昇(48時間以内に0.3mg/dl以上の上昇)あるいは,6時間以上尿量低下(0.5ml/kg/hr以下)が認められた場合,AKIと診断できる.
しかし,このように新たな疾患概念として提唱されたAKIにおいても,診断および重症度をsCreと尿量といった数十年にわたって用いられている古典的なマーカーが採用されている.sCreは糸球体濾過率(glomerular filtration rate,GFR)の変化より24~48時間以上遅れて変動することが知られている4).また,sCreは栄養状態や全身の筋肉量に依存し,低栄養状態や体格が小さい症例ではGFRが低下していても,見かけ上は正常範囲内にとどまっていることもあり注意が必要である.もう一つのマーカーである尿量も,循環動態や利尿薬,および補液の影響を受けるので,腎臓の臓器障害そのものを反映できていない可能性がある.
sCreおよび尿量の問題点が上記のように指摘されるとともに,AKIは主に尿細管上皮細胞の傷害がその病態形成に関与していることから,上皮細胞傷害を鋭敏かつ早期に検出できる新規バイオマーカーの開発が国際的に盛んになった.AKIバイオマーカーは傷害を受けた尿細管上皮細胞から放出されるものであり,これらはネフロン構造が破綻してGFRが低下した後に血中に老廃物として蓄積するクレアチニンの濃度上昇に先行する(図)5).
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