Laboratory Practice 〈微生物〉
市中感染型MRSA感染症
宮城 郁乃
1
,
山根 誠久
2
1琉球大学医学部附属病院検査部
2琉球大学大学院医学研究科先進検査医学講座
pp.313-317
発行日 2011年4月1日
Published Date 2011/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543103119
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はじめに
2010年1月,沖縄近海を航行中の貨物船より緊急コールがあり,意識不明のフィリピン人船員がヘリコプターにて搬送されてきた.広汎な臀部膿瘍があり,この病変部よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)が分離された(図1).昨今話題となっている典型的な市中感染型MRSA感染症であり,迅速で適切な診断と治療により救命された.
1960年代に出現したMRSAは,その名称の由来となったペニシリナーゼ抵抗性ペニシリンにとどまらず,広い範囲のβ-ラクタム系薬をはじめとする数多くの抗菌薬に耐性を示す超多剤耐性菌として,今や世界的な,最も代表的な院内感染の原因菌となった.ところが,2000年代になり,市中感染型MRSA(community-acquired methicillin-resistant S. aureus,CA-MRSA)がにわかに注目されるようになっている.その理由は,特に易感染リスクのない健康なヒト(壮健なフィリピン人船員)が感染し,その病像が極めて重症(広汎な臀部膿瘍から意識不明となり,救急救命措置が必要となった)であり,しかもその頻度が急増しているという点にある.このCA-MRSAは北米,ヨーロッパ,オセアニア,東アジアと,現在では世界各地から報告が続き1~4),世界的に大きな脅威となっている.本稿では,自験例の紹介とともに,CA-MRSAの定義と疫学,Panton-Valentine leukocidin(PVL)などのCA-MRSAの病因因子についても解説していく.
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