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はじめに
WHOの心筋梗塞診断基準は従来,①胸痛,②心電図変化,③心筋マーカの三つのうち二つをもって心筋梗塞の診断とすることを推奨していた.しかし,心電図のST上昇や異常Q波は心筋梗塞の特異度が非常に高いが,心筋梗塞症例の約半数では認められず,心筋梗塞症例の4分の1は典型的な胸痛を訴えない.一方で,心筋梗塞は胸痛を訴えて救急外来を受診する症例の20%に満たない.したがって,心筋梗塞を診断する,あるいは除外する目的で,心筋マーカの役割は大変重要である.2000年ACC/AHA(American College of Cardiology/American Heart Association)ガイドライン1)によって心筋梗塞の定義が変更となり,心筋マーカとして従来のCK-MBに加えトロポニン(TおよびI)が心筋梗塞の診断に不可欠な位置づけとなった.トロポニンは感度の高い心筋マーカであり,従来は心筋梗塞と診断できなかった微小心筋障害を検出することにより,2000年のACC/AHAによる心筋梗塞再定義後は心筋梗塞の診断が従来の1.3倍に増加した.
一方,このように心筋梗塞の確定診断には心筋マーカは重要ではあるが,実際の臨床現場では,ST上昇型心筋梗塞症例では心筋マーカの測定結果を待たずに心電図診断に基づき治療を優先させるべきであることには注意が必要である.
心筋の傷害によって,サルコメア膜の透過性が亢進し,細胞内可溶性分画である血清心筋マーカが心筋間質へ拡散を始める.間質へ拡散した心筋マーカは梗塞部位の微小血管やリンパ管へと流れ込む.さらに心筋壊死が進行すると,細胞内の蛋白分解酵素の活性化を経て筋原線維の分解が起こり,血中へと遊出する(図1)2,3).心筋マーカとして理想的な特性は,心筋内には高濃度に存在するが,他の臓器にはない物質であることである.さらに心筋障害が起こったときに速やかに血中に検出されること,血中濃度と心筋障害量との間に相関関係があることが望ましい.かつ,血中にある程度安定して存在し,容易に測定できることも大切である.急性心筋梗塞のバイオマーカとしては,研究段階のものを合わせると図2のように多岐にわたる4).本稿では,現在臨床応用されている主な心筋マーカであるクレアチンキナーゼ(creatine kinase,CK),CKアイソザイム,心筋特異的トロポニン,心臓型脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein,H-FABP),ミオグロビン,ミオシン軽鎖,白血球数,C反応性蛋白(C-reactive protein,CRP)について述べる(表).
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