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はじめに
薬剤服用後の血中動態・副作用の発現は,個々の患者で異なる.例えば,等量のお酒(アルコール)を飲んでも,個人個人でその酔い方には明らかな差が生じる.この機序は薬剤代謝にかかわる薬物動態(pharmacokinetics,PK)および薬物受容体などの薬剤感受性にかかわる薬力学(pharmacodynamics,PD)の両面から解明されてきた.すなわち,個々のPKおよびPDに関与する遺伝子の違いが薬剤の反応性に影響するといった知見である.
薬剤の投与前にPKおよびPDに関与する遺伝子検査を行うことで,薬物の反応性,動態,副作用の発現が予測できれば,個々の患者に応じた安全で効果的な薬物治療,いわゆるオーダーメイド医療が実現できる.当院では2005年7月より臨床ゲノム診療部,薬剤部,企画情報運営部,検査部および消化器内科,循環器内科,神経内科などの診療科を中心としてPharmacogenomics Working Groupを立ち上げ,薬剤代謝酵素遺伝子検査の院内実施を実践している1).
本検査は遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)に該当する.したがって,適切な診療・検査体制を整備するには,遺伝医学関連10学会2)による「遺伝学的検査に関するガイドライン」(2003年)の指針に基づき施行されなければならない.一方で,ファーマコゲノミクス(pharmacogenomics,PGx)検査は遺伝学的検査に該当するが,その目的は薬剤の効果・副作用を予測する指標・手段である.単一遺伝子病などを確定診断する遺伝学的検査と同じ取り扱いが適用されたのではその施行と普及に大きな障壁となる.このため,PGx検査の実施において,診療の実際に即した運用指針の策定が求められていた.
2009年3月,日本臨床検査医学会,日本人類遺伝学会,日本臨床検査標準協議会の3団体から「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」が公表された.その後,2009年11月に改訂がなされた.
本講では本指針を紹介し,今後のPGx検査の進展・普及に期待したい.
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