- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
自己免疫疾患とは,本来異物とは認識されないはずの自己の組織に対して抗体(自己抗体)が産生され,自己の組織との間に抗原・抗体反応が引き起こされる結果,組織が障害を受けることによって生じる疾患をいう.
一般に自己免疫疾患は出産年齢にある女性に好発する疾患が多いため,妊娠とのかかわりが問題となることが少なくない.自己免疫疾患を特徴づけるものとして自己抗体の存在が挙げられる.自己抗体のうちIgGクラスのものは胎盤を通過し胎児に移行する.その結果,母体が有する自己抗体の種類によっては胎児に母体と同様の症状が引き起こされる場合がある.例えば,特発性血小板減少性紫斑病では母体の抗血小板抗体が胎児に移行し,胎児も血小板減少症になっている可能性があり,分娩様式の選択にあたってはこの点を考慮する必要がある.同様に,重症筋無力症では母体の抗アセチルコリンレセプター抗体が胎児に移行して胎児の嚥下運動が障害される結果,羊水過多を呈する場合がある.
このように,自己免疫疾患合併妊娠では,母体からの移行抗体による獲得免疫によって,胎児にも一時的に母体と同様の疾患が形成される可能性があるので,それぞれの病態に応じた周産期管理が必要となる.
一方,母体の有する自己抗体のなかには,母体に対して妊娠の維持に悪影響をもたらす症状を引き起こすものや,胎児に移行することによって特有の症状を引き起こすものがある.前者は抗リン脂質抗体による不育症の問題であり,後者が抗SS-A(Sjögren's syndrome A)抗体と抗SS-B(Sjögren's syndrome B)抗体による新生児ループスの問題である.
本稿では自己抗体が妊娠・胎児に及ぼす影響を中心に,自己免疫疾患合併妊娠を管理するうえでの問題点と対策について,産科医の立場から述べてみたい.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.