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はじめに
肺高血圧症とは,肺動脈における血管内圧の上昇を認める疾患であり,安静時の平均肺動脈圧が20mmHg以上と定義される1).従来,原発性と二次性といった単純な区分がされていた肺高血圧症は,5年ごとに開催されている国際シンポジウムでその病態や治療法に共通性を有する疾患をまとめた分類が整理されつつあり,2008年アメリカのDana Pointで開催された第4回肺高血圧症世界会議では,改訂版の肺高血圧症臨床分類(表)が提唱された2).肺高血圧症は病態をもとに5種類のカテゴリーに分類されており,特発性および遺伝性肺高血圧症を含む第1群の肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertention,PAH),第2群は左心系疾患に関する肺高血圧症,第3群は呼吸器疾患/低酸素血症に関連する肺高血圧症,第4群は慢性血栓塞栓性肺高血圧症,第5群はまだ機序が解明されていないさまざまな要因による肺高血圧症とされている.この改訂版肺高血圧症臨床分類(表)をみるとわかるように,肺高血圧症とは肺動脈圧の上昇を認める病態の総称であり,肺動脈圧の上昇の原因は実にさまざまである.
では,肺高血圧症の呼吸機能評価という本稿における本題であるが,臨床分類のカテゴリーよりわかるようにその病態により呼吸機能は異なるので,その疾患概念と病態への理解が必要となる.まず,肺高血圧症の診断における呼吸機能の検査の位置づけを診断アルゴリズム(図1)を追いながら確認する.労作時呼吸困難や易疲労感などの症状や身体所見からこの疾患が疑われた場合,もしくは無症候でも発症危険度の高い高リスク例に対し,一般的にスクリーニング検査として心電図,胸部X線,心エコー検査が施行される.特に心エコー検査は有用な非侵襲的検査法として推奨されており,三尖弁逆流からの圧較差が30mmHg以上および右室圧負荷所見などの所見より肺高血圧の存在が確認できるとされている.心エコーにて肺高血圧症が強く疑われるにもかかわらず弁膜症などの第2群の左心系疾患が否定的な場合,呼吸機能検査や換気血流シンチグラフィー他の検査が必要となる.つまり,第3群の呼吸器疾患・低酸素血症に関連する肺高血圧症および第4群の慢性血栓および/もしくは塞栓性疾患における肺高血圧症の可能性の有無についての鑑別診断を行うための検査が必要となる.これらの検査にて肺高血圧症をきたす疾患の鑑別診断と臨床分類を行い,右心カテーテル検査により肺高血圧症の確定診断となる.これらの検査は,肺高血圧の存在診断,肺高血圧症をきたす疾患間における鑑別診断,治療方針決定のための重症度評価および臨床分類のため施行される.
以上を踏まえ実際の症例を検討する.
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