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はじめに
当院では,脳腫瘍の術中迅速診断に,必ず細胞診と組織診を併用している1~4).グリオーマ(図1:星細胞腫G2)など脳原発の腫瘍の多くは組織が軟らかく,迅速診断のための凍結組織標本(図1a)では,ホルマリン固定による組織標本(図1b)と比較して,凍結時の氷の結晶によるアーティファクトのために凍結切片による組織診での診断に難渋することが少なくない.そのため組織を凍結させることなく標本を作製する細胞診との併用が必須である.
術中迅速細胞診は1927年に既に有用な診断方法として認められているにもかかわらず5),いまだに十分に活用されているとは言い難い実情にある.その理由として,術中迅速細胞診は迅速組織診断の補助診断という病理医の固定観念によることも否めない.しかし,15年間脳腫瘍の術中迅速診断1,878例を細胞診だけで迅速診断し,その正診率が95%という報告もあり6),また脳腫瘍の迅速診断では,組織診(凍結切片)よりも細胞診のほうが診断に役立つとする報告もあるが7),筆者も自分の経験からその報告は首肯しうるところである.実際,病理専門医の多くが細胞診専門医の資格を有する現在では,迅速細胞診が迅速組織診の補助診断という固定観念もなくなりつつある.
術中迅速診断時に提出された組織片は米粒大程度と小さい場合が多い.その小組織片をプラスチック台の上で,電顕用のピンセットとカミソリを用いて半割し,一方の半割組織片を組織診(凍結切片)に用いる(図2).残りの半割組織片の割面から①捺印法で細胞診標本を作製したのち,その半割組織片をさらに粟粒大程度に細切し,その細切組織片から,②圧挫法および③合わせ法を用いて細胞診標本を作製している.
そこで,本稿では①捺印法,②圧挫法,③合わせ法による標本作製方法およびその特徴(長所,短所)について述べる.
なお,当病理部では,1996年以来,術中迅速診断時に必要に応じて迅速免疫染色(所要時間10分)を行い,組織発生学的診断に役立てている3).染色性は迅速免疫細胞染色のほうが迅速免疫組織染色より良好であるが,その理由としてはガラス面に薄く塗抹されたのち,速やかにアルコール固定されるためと考えている.
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