疾患と検査値の推移
除菌前後のヘリコバクターピロリ感染胃病変と臨床検査
岩谷 勇吾
1
,
太田 浩良
2
1信州大学医学部消化器内科
2信州大学医学部保健学科検査技術科学
pp.415-420
発行日 2010年6月1日
Published Date 2010/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543102812
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はじめに
1983年,WarrenとMarshallが慢性胃炎患者の胃生検組織から分離培養に成功したHelicobacter pylori(H. pylori)は,その後胃十二指腸潰瘍1,2),胃癌3,4),胃悪性リンパ腫5)をはじめとする上部消化管疾患や,特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura,ITP)6)などの消化管以外の疾患との関連性が明らかにされてきた.
H. pyloriは3~5μmの緩やかな右巻き螺旋状構造をもつグラム陰性桿菌であり,4~8本の有鞘性鞭毛を用いて活発な運動を行う.酸素濃度3~10%の微好気性環境でのみ発育し,発育環境が悪いと球状体(coccoid form)に変化する.H. pyloriの最大の特徴は菌体表層の強力なウレアーゼ活性により,胃液中の尿素を分解してアンモニアを生成し,胃酸を中和することで自らの菌体を保護していることである7).
わが国でのH. pyloriの感染率は若年層で低く中高年層で高い傾向を示しており,10~20歳代では10%台にとどまっているものの,30歳代では30%台に上昇し,40歳代を境に60%以上と急激な増加傾向を示す8).H. pyloriの感染経路として飲用水を介した経口感染が考えられており,これらの傾向は第二次世界大戦後の1950年代に公共用水施設がわが国に導入され,上下水道の整備が進んだことと関連があると考えられている.
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