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はじめに
バイオマーカーは血清などの検体に含まれる生体由来の物質で,病態などに伴う生体の変化を定量的に表す指標となりうるものであるが,循環器領域におけるバイオマーカーの検討は比較的新しく,昨年,急性冠症候群と心不全についてNational Academy of Clinical Biochemistry Laboratory Medicine Practice Guidelineが発表されたばかりである1,2).トロポニンは心筋フィラメント上の蛋白であり,トロポニンI,T,Cで複合体を形成している.また,トロポニン複合体は,骨格筋と心筋の両者において横紋筋のアクチンとミオシンの間のカルシウムを介した筋収縮の調節を行っている.表1に現在米国食品医薬品局(Food and Drug Administration,FDA)により認可されている血中心筋トロポニンの測定試薬を示す3).いずれも骨格筋と交差しない心筋特異的な抗体を用いており,心筋トロポニンは2000年の欧州心臓病学会/米国心臓病学会(The European Society of Cardiology/American College of Cardiology,ESC/ACC)における急性心筋梗塞診断基準改定より,診断基準に記載されるようになった4~7).
現在まで,市販されている測定試薬での急性心筋梗塞の診断基準値は,それぞれの測定試薬における「健常者の99パーセンタイル値」(表1参照)とされてきた.また,変動係数(coefficient of variation,CV)は数値の相対的な散らばりを表す指標で,この値が小さいほど検査の精密度(precision)が高いが,健常者の99パーセンタイル値におけるCVが10%以下である測定試薬がESC/ACCで定められた急性心筋梗塞のガイドラインにおいても推奨されている4~6)[CV(%)=標準偏差(standard deviation,SD)÷平均値(mean)×100(%)].従来はCVが大きく,検出感度が低い試薬も多く,検出限界に近い数値の評価は困難であった.しかし今後臨床に普及する測定試薬は概して精度,感度ともに高い.これらの測定試薬が使用されるに当たって,病変の検出感度がより高くなり,さらには従来正常範囲と考えられていた急性心筋梗塞の診断基準値である「健常者の99パーセンタイル値」以下の実数値の病的意義の検討も可能な時代となってきた8,9).
本稿では,血中心筋トロポニン測定について,①測定系,②急性心筋梗塞の診断,リスク評価における心筋トロポニン測定,③慢性,急性心不全の予後推定における心筋トロポニン測定,④腎不全と心筋トロポニン値,⑤高感度測定について述べる.
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