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筋原線維は筋肉細胞の最小単位で,ミオシン分子で構成されるものと,アクチン,トロポミオシンなどから構成される物がある.この両者の架橋の役割と細胞内Caによる筋収縮の調節をする働きを持っているのがトロポニンT (TnT)複合体である.この複合体はトロポニンI,C,T (TnI,TnC)で構成され,まったく異なる機能を持っている.総TnTの94%は細胞内で不溶性で,6%がサイトゾール中で可溶性で,その85%が遊離する.ミオシン軽鎖も不溶性で,筋膜損傷時にサイトゾールミオシン軽鎖-1の28%,総ミオシン軽鎖としては0.035%ぐらいしか遊離しない.CKはサイトゾール中に存在し,細胞外膜損傷を知るのによく,また,ミオシン軽鎖は細胞全体の壊死を知るのによい指標である.両者は心筋には特異性がないが,TnTはサイトゾール可溶性の性質と不溶性構造分子の性質を持ち,かつ心筋と骨格筋とはアミノ酸構造が異なる.筋肉疾患マーカー蛋白として,心筋と骨格筋の鑑別に,これを測定することは心疾患の診断に有用である.測定原理は心筋と骨格筋のTnTのアミノ酸配列の違いをビオチン標識したポリクローナル抗体とペルオキシダーゼ(POD)標識したモノクローナル抗体を用いて心筋特異性のあるTnTをワンステップサンドイッチ法を用いチューブ固相法で測定する.心筋由来のTnTに対するポリクローナル抗体はヤギ血清から得て,これにビオチンを結合し,アビジンを固相化した(14ng/tube)ポリビニールクロライド性のチューブ内で反応を行う.ストレプトアビジンービオチン結合は親和性が高く,液相で抗原抗体反応が行われると迅速で高感度の測定ができる.ポリクローナル抗体はわずかではあるがミオシン軽鎖と反応する.モノクローナル抗体は細胞融合法により,ハイブリドーマのセルライン1B10-lgG抗体にPODを標識(40 mU/ml)して,心筋特異性の高いTnTのエピトープを認識する.この2つの抗体と結合したTnTを標識酵素であるPODがABTSと過酸化水素を基質として発色定量する.測定は①検体またはカリブレータ100μlをストレプトアビジンを固相化した測定用チューブに加えてビオチン標識のポリクローナル抗体と同時にモノクローナル抗体をクエン酸(10mmol/l)・リン酸(47 mmol/l)緩衝液(pH6.3)に溶解したものを100μ1加える.ストレプトアビジンーピオチン結合抗体とTnTと反応し,さらにこの複合体にモノクローナル抗体と25℃,1時間反応させる.②TnTと結合していない抗体および検体(血清)成分を洗浄除去する.③基質色原体溶液[リン酸一クエン酸緩衝液(pH7.4)に過酸化水素(3.2mmol/l)とABTS(1,9mmol/l)]1mlを加え,PODと25℃で30分間反応させて405 nmで測定する.測定レンジは0.10~25ng/mlで0.5ng/ml以下ではやや正確性に欠ける.5%BSAを添加するとやや高めの非特異結合を示す.カットオフ値を0.25ng/mlとして測定する.日内再現性はCVとして1.5~5.5%,日差再現性は1.6~10.7ぐらいである.本法はヒト骨格筋とは1%ぐらい交差反応し,ヒトとウシ心筋とは100%近くクロスし,ウシ心筋TnTはカリブレーターとして使える.添加回収試験は平均99%である.参考値は全体で0.05±0.06(n=170),男0.06±0.07(n=79),女0.03±0.04ng/ml(n=97)である.血清での測定値に比べてEDTA,シュウ酸では正の,ヘパリン,クエン酸では負誤差が認められ,血清を用いたほうが安定している.溶血,高ビリルビン血症や高脂質血症などでの影響は顕著でない.高リウマチ因子血症では高値となり注意が必要である.心筋梗塞や心臓手術で高値を示し,検出時間が長く,診断的特異性が高い.不安定狭心症の40%ぐらいに正常値の2~3倍の高値を示す.骨格筋障害の95%では正常である.肺癌や食道癌でも異常高値を示す例がある.心筋梗塞でのPTCAやPTCRによる治療効果の判定や経過観察にも有効と考えられる(なお,この方法はベーリンガーマンハイム社でキット化されている).
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