Laboratory Practice 〈血液〉
先天性血栓性素因が疑われたときに行う検査
森下 英理子
1
1金沢大学大学院医学系研究科病態検査学
pp.52-55
発行日 2008年1月1日
Published Date 2008/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543101973
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血栓性素因の診断の流れ(図)
血栓症患者の原因検索をする際に,臨床所見として①40歳代以前に静脈血栓症を発症したり,②再発性であったり,③稀な場所に発症したり(脳静脈洞血栓,門脈血栓,腸間膜静脈血栓など),④家族性に血栓症の発現がみられたりする場合には,先天性血栓性素因があることを予測して検査する必要がある.現在,先天性の血栓性素因としては凝固制御系因子であるアンチトロンビン(antithrombin,AT),プロテインC(protein C,PC),プロテインS(protein S,PS)の三つの因子の欠乏症,凝固第V因子(factor V,FV)Leiden変異(506番アルギニン→グルタミン), プロトロンビンG20210A変異などが知られている.
血栓関連遺伝子に関しては,人種差が注目されており,既にFactor V Leiden変異やプロトロンビンG20210A変異は欧米人における血栓症発症の危険因子であるが,日本人には見られないことが明らかになっている.一方,近年報告された日本人一般住民を対象としたAT,PC,PS欠乏症の発症頻度は,PC欠乏症0.13%,AT欠乏症0.15%と欧米人と差はないが,興味深いことにPS欠乏症は1.12%と欧米人(0.16~0.21%)に比べて明らかに高いことが判明した.特に,PS分子異常の頻度が高く(欧米人の5~10倍)1),なかでもPS Tokushima変異(155番リシン→グルタミン酸)は日本人の遺伝子多型と考えられ,血栓症の重要な危険因子である2)ことが明らかになった点は注目に値する.
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