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はじめに
血清蛋白質異常症の検査法として最初に実用化されたのは,Tiselius(チゼリウス)博士によって開発されたU字管式の電気泳動装置1,2)である.わが国においても1950年に創立された日本電気泳動学会で最初に取り上げられた研究テーマの一つが「チゼリウス電気泳動装置による血清蛋白質の分析」に関するものであった.当時は血清蛋白質を解析する有効な手段が他になかったため,悪性腫瘍などに伴う血清蛋白質異常症の検査法3)として注目され,多くの臨床研究が報告されたが,デリケートな光学装置が必要なことや,取り扱いに高度の技術が必要であったこと,多くの検体を検査することが困難であったことなどから,臨床検査法として広く普及するには至らなかった.しかし,チゼリウスの電気泳動装置によって得られた臨床研究の成果が,濾紙やアガロースゲル,セルロースアセテート膜などの支持体を用いた血清蛋白質検査法の開発を促し,全自動セルロースアセテート膜電気泳動装置の開発と普及へとつながった.
セルロースアセテート膜電気泳動法は,血清蛋白質異常症の検査法として今日まで利用されてきたが,血清中に含まれている数百種以上の蛋白質の変化をわずか5分画のパターンの異常性によって分析することには限界があり,多くの診断マーカーでELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法やレーザーネフェロメトリー法などによる個別分析が実用化されるようになったことなどから,セルロースアセテート膜電気泳動法の重要性は次第に低下してきている.このような状況のなかでヒトの全ゲノム塩基配列の解読が終了し,ポストゲノム時代の新しい蛋白質解析技術として,プロテオーム解析法(プロテオミクス)が登場した.
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