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はじめに
内分泌撹乱化学物質(endocrine disrupters,いわゆる環境ホルモン)は,「外来性の物質であり,無処置の生物の内分泌系に対してその個体もしくはその子孫の世代のいずれかのレベルで健康障害性の変化を起こさせるもの」と定義がされている(European Workshop on the Impact of Endocrine Disruters on Human Health and Wildwife,1996).近年,これら化学物質のレセプター結合,情報伝達,遺伝子発現機序について研究が進み,環境中に存在する化学物質について,種々のホルモン受容体に対するアゴニスト作用,アンタゴニスト作用が明らかとなってきた.それに伴い,当初の生殖器系にとどまらず,甲状腺機能を介した小児神経発達,免疫機能など広範な生理機能に対する作用を示唆する報告が発表されている.
今までに化学物質暴露との関連が明らかになっている作用について表1に示す.
環境中にある化学物質のうち環境省が選定した物質については,毎年環境中濃度を測定して「化学物質と環境」にて公表しているが,外来性化学物質と生体影響についての国内疫学研究はほとんどなく,長期的な影響も含めた関連について議論するには知見が少なすぎる.一方で,物質文明の繁栄とそれを支える化学物質の新規製造,汎用により,現在人類は非常に多くの化学物質に接触しながら生活し,高濃度量の暴露を受ける危険性が常に存在している.
胎児・小児が成人へと成長するに当たり,さまざまな器官が生理学的に発達・成長していくが,器官ごとにその構造と機能が成熟する時期は異なる.環境ホルモン作用で考慮しなければならないのはその作用に時間的な「窓」を考慮しなければならないことである.例えば,性ホルモン関係では,8~9歳以前では黄体形成ホルモン(luteinizing hormone,LH)や性ホルモン(エストラジオール,テストステロン)の血中濃度は極めて低く保たれる必要があるとともに,発生段階においては適切な濃度が保たれている必要がある.また,脳中に必要な物質のみを取り込むためのバリア(障壁)である血液脳関門は生後6か月まで不完全である.発達途上にある脳への有害な物質の侵入は,発達中における影響のみならず,後の発達過程にも影響を及ぼすものと考えられる.多環芳香族炭化水素,メチル水銀,エタノール,PCB,DDT,鉛などの有害物は胎盤を通じて胎児の血中に入り込むことが知られており,さまざまなホルモン受容体が活性化している胎児期においては,ことさらに内分泌撹乱作用をもつ化学物質よる暴露とその影響が懸念される.
また,成長によって特有の行動様式があり,それに伴う暴露があるという考慮も必要である.母乳は乳児にとって重要な栄養源であるが,その一方で,母親の体内に蓄積された脂溶性の化学物質の暴露源となりうる.また,幼児期においては,成人に比べて果実や乳製品などの摂取が多いことが知られ,摂取する食品の多様性にも乏しいことから,特定の食品から有害物質を予想外に暴露する可能性がある.発達期には,手や物を口に入れる特有の行動(マウジング),匍匐や遊びによって成人と異なった暴露を受ける可能性がある.図2に小児の発達・成長に応じた生活環境・行動の変化を示した.
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