連載 いま知っておきたい環境問題・6
環境ホルモンの健康影響
香山 不二雄
1
,
岩井 裕子
1自治医科大学衛生学
pp.597-603
発行日 1999年7月10日
Published Date 1999/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902014
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環境ホルモン問題の登場
環境汚染化学物質が動物の内分泌系を攪乱して生殖機能の異常を起こしていると考えられる例が世界各国から報告されてきた。疑わしい環境汚染物質の中にエストロジェン(女性ホルモン)のような働きをする化学物質があることが明らかになってきたのは,細胞を使った試験管内の研究や実験動物を用いた実験研究により,疑われている化学物質で同様の生殖機能の障害を再現することができたからである。生殖異常の発生メカニズムは,母親が摂取した化学物質が胎児期にエストロジェン受容体に結合し,まるでエストロジェンが作用したように影響して,生殖器などの異常を起こしていることが明らかとなった。
一方,1960年から70年代にかけて,欧米では切迫流産の妊婦に対して妊娠の継続のために合成女性ホルモン製剤ジエチルスチルベステロール(DES)が投与された。胎内でDESに曝露した子供が成長後,膣がんや生殖器の異常,精液の質の低下を起こしたことが多数報告された。女性ホルモン様物質の胎内曝露が人に対して種々の生殖器異常を惹起した例があったため,野生生物に起こった内分泌撹乱の例が,ヒトにもすでに健康影響として出始めているのではないかと危惧されている。生殖器,内分泌系以外の免疫系や神経系への影響も関連があるとの報告があり,現在,危惧されている健康影響は表1に示すように多岐にわたっている。
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