技術解説
やさしい原子吸光の話
高原 喜八郎
1
1日本専売公社東京病院検査科
pp.969-974
発行日 1965年11月15日
Published Date 1965/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542915814
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はじめに
原子吸光または原子吸光分光分析法ということばは,開発されてまだやっと数年にも満たない新らしい元素分析方法の用語であり,はじめてこのことばに接する人々は大変特殊なむづかしそうなムードとしての感触をうけるのであるが,原子吸光そのものの現象は実は100年も昔から知られていたのである。中学以上で物理を習った人や,日光のスペクトルに関心をもつ人ならば,フラウンホーフェル線(Fraunhofer's line,以下フ線と略す)の名前はべつにこと新らしいものではない。このフ線の出現する機序が実は原子吸光そのものの現象であることは,すでに1832年,イギリスのD.BREWSTERによって説明されていたのである。さてフ線は太陽光線を分光器で観測するとき,みいだされる黒い吸収帯のことをいうが,その出現する部位(波長)が一定しているために,A,B,C,D……M,N,O等の名でよばれている。これらの吸収帯の出現する位置の波長は,表1のごとく,実は各種元素の原子が熱エネルギーなどで励起*されたとき発射する光の波長と一致している。これは太陽の周辺にガス状となった各種元素の原子がとり巻いているところへ,太陽の高熱で励起された各元素原子からの光が貫通するとき,ガス体中のある元素の原子は,同一元素の原子から発射された光を特異的に吸収するためによっている。
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