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感染症の歴史を振り返ってみると,20世紀前半までは病原性の強い微生物による感染症がほとんどであった.20世紀の後半に入り,公衆衛生の普及,環境衛生の改善,種々の抗菌化学療法剤やワクチンの開発などにより伝染性感染症の多くは激減した.そして,医療の高度進歩によってもたらされた易感染者(コンプロマイズドホスト)が増加し,病原性が極めて弱い,あるいはほとんどないと考えられていた微生物による感染症,いわゆる日和見感染症が注目されるようになった.さらに,今日では,新しく発見された微生物による感染症(emerging infectious diseases)が世界的に出現しており,既に制圧したと思われた感染症(re-emerging infectiousdiseases)が再びまたは少し姿を変えて世界各国に流行し始めている.
一方,感染症の診断には不可欠である起炎微生物検出法の進歩も目覚ましいものがある.起炎微生物の検出には,従来から培養法が行われており,現在でも微生物検査の主流となっている.しかし,培養法は微生物を同定するまでに時間がかかり,感染症の診断,治療,経過観察には,臨床医にとり必ずしも満足すべきものではなかった.そこで,微生物検査にも,正確で,迅速な検査法の開発が求められ,特に臨床的に迅速な対応が必要な感染症,例えば,敗血症,髄膜炎,重症肺炎,下痢症などでは,起炎微生物の迅速な検出が大きな課題となった.この問題を克服するために,培地の改良,簡易同定キットや同定自動機器が開発され,普及した.さらに,従来の方法では分離培養が困難な微生物や分離に時間を要する微生物などを対象とし,非分離・非培養による迅速診断法が開発されている.微生物抗原の免疫学的検出法,遺伝子診断法がそれである.
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