特集 神経系疾患と臨床検査
Ⅱ.免疫
2.サイトカイン(末梢血・髄液)
錫村 明生
1
Akio SUZUMURA
1
1奈良県立医科大学神経内科
pp.1325-1329
発行日 1997年10月30日
Published Date 1997/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542903487
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はじめに
免疫学的特権部位とされ,免疫反応の起こらないとされていた中枢神経系においてもグリア細胞により活発にサイトカインが産生される.実際の脳でのこれらのサイトカインの発現をみると,正常の成熟脳ではほとんど発現がみられず,絶えずシナプス形成を繰り返している嗅球で一部のサイトカインの発現を認めるのみである.しかしながら,発達段階や,炎症,外傷,虚血,変性などの病態では種々のサイトカインの発現を認め,神経系においてもサイトカインが生理,病態に重要な働きをしていることが推測される.
現在までの知見により,生理的にはサイトカインは直接,あるいは神経栄養因子,接着因子やそのほかの液性因子の産生を介して神経細胞の生存,機能維持に働いていること,神経―免疫―内分泌系の調節因子として生体の恒常性を保っていること,脳の感染防御系に重要な役割を果たしていることなどが明らかになっている.病態におけるこれら神経系のサイトカインの役割はまだ不明な点も多いが,グリア細胞由来の腫瘍壊死因子(TNFα)は神経変性,炎症性脱髄,グリオージスなどの発症に関与していることが報告されている.また,病変部ではグリア細胞由来のサイトカイン以外に浸潤細胞由来のサイトカインも盛んに産生され,神経組織の傷害,防御,あるいは修復機構として働いている.したがって,髄液中のサイトカインを測定し,その動態を解析することは神経疾患の病態,病勢を把握する有用な手掛かりになりうると考えられる.その際に,髄液中のサイトカインの上昇の機序には,炎症細胞由来のサイトカインと組織の神経系細胞由来のサイトカインの双方が関与していることを念頭に置く必要がある.
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