寄生虫屋が語るよもやま話・14
発酵はおいしい!—タイ肝吸虫症
太田 伸生
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1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
pp.212-213
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542201114
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日本を含む東アジアは高温多湿なため,いわゆる発酵文化圏といわれる.日々,さまざまな発酵食品を堪能できることは個人的には大きな喜びである.読者諸姉兄にとってしょうゆ,漬物,みそなどは日々の食卓に欠かせないであろう.ショッツルなどの魚醬は少しハードルが高くなるが,秋田の郷土料理として地域を越えて一般に浸透している.クサヤのレベルになると拒否する方も多くなるかもしれない.しかし,そこに漂う排泄物臭とそれを超越する“うま味”こそが発酵食品の醍醐味ともいうべきものであり,奇妙な陶酔感を味わうことができる.バンコクを訪問した折には,名前は失念したが,クサヤを凌ぐ大物の干物が現地にあり,クサヤを懐かしむ在留邦人に人気が高いと聞いた.有名なドリアンの比ではなかった.そんなタイで,一部地域で人口に膾炙する某発酵食品が寄生虫症の流行と深く関係しているというのが今回の話題である.
タイの東北地方は“イサーン”と呼ばれる.タイ国内では開発がやや遅れた地区で,文化的にも首都・バンコクと異なり,タイの人にとって貧しい地方という印象があると聞く.食文化も異なり,むしろメコン川を挟んだ対岸のラオスと似ている.イサーンはタイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)感染症の大流行地であり,村を調査すると住民の70%以上が感染者という地区も決して珍しくない.
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